「火焔太鼓」

「火焔太鼓」
 
物事はその本質とはかけ離れた部分で解釈されることが多い。
本質を隠ぺいするためなのか、あるいはそこまで推理が出来ないためなのかは不明。
ただ少なくともマスコミ論調や市場関係者の解釈と本質が一致していないことが多いのも現実。
誤解と錯覚も多い。
「1000円から3割下落すると700円。
700円から3割上昇しても910円。
1000円に戻るためには43%程度の上昇が必要」。
これは結構株価の本質を衝いている。
下落はたやすく、戻りは大変。
この13%程度のギャップが重く圧し掛かる。
決して引力のせいで株価が下げやすい訳ではない。
ただ一方で、株価の下落率は最大99.999・・・%までが限界。
一方で上昇率は無限大。
売り手は限定収益に対して投資し、買い手は無限の可能性追求に投資する構図。
買い手のすべてが無限大の利益を得ている訳ではないが期待収益は可能性としては無限大。
この99%の売り手の期待収益と13%の戻りの重さ。
この対立がマーケットであることは間違いない。
 
その昔。
替え歌を作りながら思ったこと。
明るい歌詞は少なく、追憶的なものや悲哀的なものが実に多い。
だからマーケット展開の軟調な時は、妙にシックリくる。
そして、弱いときこそ「頑張ろう」という元気な歌詞を選択することになる。
つまり・・・。
行け行けドンドンの時は、あまり替え歌が作れない。
新安値や大幅安の時ほど多作になる。
ということは、替え歌の多い時は軟調というアノマリーにもなろうか。
 
《兜町落語》「火焔太鼓」
 
株好きの甚兵衛は女房と甥の定吉の三人暮らし、
お人好しで気が小さいので株式投資はまるでダメ。
 
おまけに恐妻家でしっかり者のかみさんに毎日尻をたたかれ通し。
 
今日もかみさんに「株で損ばかりしている」と小言を食っている。
 
今回甚兵衛が買ったのは上場もしていない未公開ベンチャー企業だった。
 
何せ甚兵衛の株式投資の「実績」は時として「監理銘柄」、「整理ポスト」、「上場廃止」、「会社更生法」。
「立派」な代物ばかりだから、かみさんの怒るのも無理はない。
 
それでも「買っちまったものは仕方がない」と定吉に調べさせてみると・・・。
「累損増加」、「債務超過」でホコリが出るわ出るわ、
もはやリストラもできず市場の誰も見向きもしないボロ銘柄。
上場なんておぼつかないシロモノ。
 
調子に乗って定吉がホコリのいくつかを数え上げながら「ボロ株だボロ株だ」と踊りだす始末。
 
どこで聞きつけたか、外から身なりの良い侍が入ってきた。
「コレ、ボロ株と騒いでいたのはその方の宅か」
「今、殿さまがお駕籠でお通りになって『ボロ株』の声がお耳に入り、
ぜひ見たいと仰せられる。
すぐに屋敷にて披露いたせ」。
 
最初はどんなお咎めがあるかとビビっていた甚兵衛、
もしかすると「ボロ株」をお買い上げになるかも知れないと考えてにわかに得意満面。
 
ところがかみさんに
「ふん。そんな上場もしていない株が売れると思うのかい。
こんなにヒドイのを持ってってごらん。
お大名は気が短いから、
『かようなむさいものを持って参った者。当分帰すな』
てんで、庭の松の木へでも縛られちゃうよ」
と脅かされる。
「どうせそんなボロ株は誰も見向きもしないのだから
買い値の一分で押しつけてこい」と家を追い出される。
 
さすがに心配になった甚兵衛、
震えながらお屋敷に着くと、
さっきの侍が出てきて
「ボロ株を殿にお目にかけるから、
暫時そこで控えておれ」
 
今にも侍が出てきて
「かようなむさいボロ株を」
ときたら、
風のようにさっと逃げだそうと、
びくびくしながら身構えていると、
意外や意外、
殿様がえらくお気に召して、
三百両の値がついた。
 
聞けば
「調べてみれば・・・。
あれはノーベル賞級の技術開発をしている国宝級の株」
というからまたびっくり。
 
甚兵衛感激のあまり、
百五十両まで数えると泣きだしてしまう。
 
興奮して家に飛んで帰ると、
早速かみさんに五十両ずつたたきつける。
 
「それ二百五十両だ」
「あァらま、お前さん商売がうまい」
「うそつきゃあがれ、こんちくしょうめ。それ、三百両だ」
「あァら、ちょいと水一ぱい」
「ざまあみゃあがれ。オレもそこで水をのんだ」
「まあ、おまえさん、株ってのはたいへんに儲かるねェ」
「うん、未公開株ってのも怪しいけどたまにはこういうことがあるんだな。
でもハラハラドキドキはもう懲りた。
おらァこんだ上場しているまともな株を買ってくる」。
「お前さんどんな株だい」
「そうさな、腹も減ってきたから牛丼・寿司・ファミレスの株かな。
そうだ、ゼンショーを買ってくる」。
「ゼンショー?。いけないよ。半鐘みたい語呂の社名だとおジャンになるから」
(終)。
 

(櫻井)

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