「株時代」
夏祭り、株かがり
株価のたかまりにあわせて
八月は夢花火 私の心は株模様
目が覚めて夢のあと
長いヒゲが上に伸びて
チャートの空に
夢はつまり思い出のあとさき
夏が過ぎ 風あざみ
株の憧れにさまよう
八月は夢花火 私の心は株模様
「ああ栄冠は株に輝く」
買い物湧き材料溢れて
天高く純白のチャート今日ぞ飛ぶ
マーケットよいざ
値動きは歓呼にこたえ
いさぎよし微笑む希望
ああ栄冠は株に輝く
懐疑を打ち悲観を蹴りて
悔ゆるなき銘柄の力ぞ技ぞ
マーケットよいざ
一瞬に気配に賭けて
相場の讃歌を綴れ
ああ栄冠は株に輝く
マドが空く株の動きに
通うもの美しく匂える未来
マーケットよいざ
買い物でストップ高の
感激をまぶたに描け
ああ栄冠は株に輝く
「未来へ」
ほら足元をみてごらん
これが株価の歩む道
ほら前を見てごらん
あれが株価の未来
相場がくれたたくさんのやさしさ
愛を抱いて歩めと繰り返した
あのときはまだ
初心者で意味など知らない
いつも株価を見続けて
一緒に歩んできた
夢はいつも空高くあるから
届かなくて怖いね
だけど追い続けるの
自分のストーリーだからこそ諦めたくない
不安になると画面眺め
一緒に歩んできた
その気だるさを時には嫌がり
放れた株へ素直になれず
ほら足元をみてごらん
これが株価の歩む道
ほら前を見てごらん
あれが株価の未来
新値へ向かって
ゆっくりと歩いて行こう
数年前に「株病の兆し」というのを数例挙げたことがある。
(1)仕事中でも必ず株価のチェックを行う。
(2)売買ができないとイライラする。
(3)値動きの少ない銘柄はつまらないと感じる。
(4)企業名を目にすると証券コードが脳裏に浮かぶ。
(5)ゴルフのハーフを終えて「前場は46でした」と言ってしまう。
(6)相撲の番付を格付けと間違えてしまう。
(7)「クジラ」は極洋、「マッチ」は兼松日産と思って何の疑問も抱かない。
(8)ニュースで「今日のトピックス」と聞くとつい「いくら?」と言う。
(9)嘘の話を「風説」と言ってしまう。
(10)寝言で「ストップ高」と呟く。
このうち半分以上該当すれば「株病の資格アリ」とされていた。
「宿屋の富」
馬喰町の、ある流行らない宿屋。
そこに飛び込んできた客が、
会社の社員は500人。
あちこちの企業に2万両、
3万両と貸している。
漬物に千両箱を10箱乗せて沢庵石にしている。
泥棒が入ったので好きなだけやると言ったのに、
千両箱80くらいしか持っていかなかった。
と、好き放題に吹きまくる。
人のいい宿屋の主人、
これは大変な大金持ちだとすっかり感心。
「実は私どもは宿屋だけではやっていけないので、
株の予想をしている。
いい株のオプションがあるので買ってくれないか」
と持ちかける。
「値はたった一分で、当たれば五百両、千両も夢じゃありません」。
千両ぽっち当たっても邪魔でしょうがないから嫌だ
というのを主人が無理に説得。
買ってもらった上に
万一当たったら半分もらうという約束を取り付けた。
男は一人になると、
なけなしの一分取られちゃったと、
ぼやくことしきり。
「あれだけ大きなことを吹いたから、
当分宿賃の催促はねえだろう。
飲むだけ飲んで食うだけ食って逃げちゃおう」
と開き直る。
翌朝、
なんとなく兜町の方に足が向く。
店頭では一攫千金を夢見る輩が、
ああだこうだと勝手な熱を吹いている。
騒いでいるうち、
海の向こうの国の値動きやら経済指標の発表が相次いでいる。
ふと株価のボードをみていると
宿の主人から買ったオプションの原資産の株価が妙にピカピカと点滅している。
オプションを見栄で買って一文無しになった宿の客、
株価を見ながら
「オレの奴は妙にピカピカしているな。
株なんざやったことがねえからわからないけど、動きはありそうだ。
おいお嬢さん、この株のこのオプションってどれくらいの値になるんだい。
え?レバレッジが100倍だから今のところ500倍?
このまんまいくと午後には1000倍くらいだって?
うーん、ウーン」
ショックで寒気がし、そのまま宿へ帰ると、
二階で蒲団かぶってブルブル震えている。
旅籠のおやじも、
部屋にこもってパソコンの画面を眺めていると、
「え?500倍、1000倍・・・アリャリャリャリャー、ウワーッ」
ブルブル震えて、飛ぶように家を飛び出すと
二階へすっとんで行き
「あたあた、ああたのオプション、千両、当たりましたッ」
「うるせえなあ、貧乏人は。
千両ばかりで、こんなにガタガタ。
おまえ、座敷ィ下駄履いて上がってきやがったな。
情けないやつだね」
「えー、お客さま、
下で祝いの支度ができております。一杯おあがんなさい」
「いいよォ、千両っぱかりで」
「そんなこと言わずに」
と、ぱっと蒲団をめくると、客も草履をはいたまま。
(兜町カタリスト櫻井)
