「芝浜」

 
芝は金杉に住む株屋の勝五郎。
腕はいいし人間も悪くないが、大酒のみで怠け者。
金が入ると片っ端からのんでしまう。
仕事回りもろくにしないから、年中裏店住まいで家賃もずっと滞納。
師走で、大納会しも近いというのに、勝公、相変わらず仕事を休み大酒を食らって寝ているばかり。
 
女房は我慢に我慢を重ねていたがいても立ってもいられなくなった。
真夜中に亭主をたたき起こしてこのままじゃ年も越せないから
上がる株を見つけて儲けてくれとせっつく。
 
亭主はぶつくさ言って嫌がるが・・・。
パソコンにはチャートが投影され四季報も置いてある。
決算短信も並べてあり、相場表も新しくなっているという用意のよさ。
文句も言えずデスクの前に座りいやいやながら相場に対峙する。
 
場に出てみると、
まだ寄り付きは迎えてない。
カカアの奴、時間を間違えて早く起こしゃあがったらしい、
ええいめえましいと、勝五郎はしかたなく、
芝の浜に出て時間をつぶすことにする。
 
顔を洗おうと波打ち際に手を入れるとひらめいた。
拾ってみるとボロボロの財布。
指で中をさぐると紙が一枚。
 
書いてあるのは4ケタの数字がゴロゴロ。
さすがに株屋の勝五郎。
「ひょっとしたらこの証券コードの株を買ったら儲かるかもしれない」。
すぐに家に帰りパソコンの前に座るとやおらトレーディングにいそしみ始めた。
すると次から次へとストップ高が続出。
2倍が4倍、4倍が8倍、8倍が16倍、16倍が32倍、32倍が64倍。
64倍が128倍。128倍が256倍。256倍が512倍。
512倍が1024倍。
寝る間も惜しんで人が変わったように24時間トレーディング。
たった数日の間に元手の100万円が10億円に化けた。
 
当分は遊んで暮らせると喜んだ株勝。
いつものように友達を呼んで酒をくらいそのまま酔いつぶれて寝てしまう。
 
不意に女房が起こすので目を覚ますと年を越せないから儲かる株を見つけてくれと言う。
金は10億円もあるじゃねえかと叱ると
「どこにそんな金がある、おまえさん夢でも見てたんだよ」。
と、思いがけない言葉。
 
聞いてみると・・・。
株商いをやろうとしたがずっと寝ていて、昼ごろ突然起きだし、
友達を呼んでドンチャン騒ぎをした挙げ句、また酔いつぶれて寝てしまったという。
 
10億円儲けたのは夢、
大騒ぎは現実というから念がいっている。
 
今度はさすがに株勝も自分が情けなくなり、
今日から酒はきっぱりやめて株商いに精を出すと女房に誓う。
 
それから三年。
すっかり改心して株の商いに励んだ勝五郎。
顧客も増え、小金もたまって、
今は小さいながら支店の長となった。
 
大納会、片付けも全部済まして夫婦水入らずという時、
女房が見てもらいたいものがあると出したのは紛れもない、
あの時の10億円のゼロの数字。
 
実は亭主が寝た後、思い余って大家に相談に行くと、
あぶく銭など使えばインサイダーじゃないかと疑われて後ろに手が回るから、
これは奉行所に見つからないように夢だったの一点張りにしておけという忠告。
 
そうして隠し通してきたが、
もうそろそろ亭主も改心したのでいい時期に来たと思ったらしい。
 
おまえさんが好きな酒もやめて懸命に働くのを見るにつけ、
辛くて申し訳なくて、
陰で手を合わせていたと泣く女房。
 
「とんでもねえ。おめえが夢にしてくれなかったら、
今ごろ、おれの首はなかったかもしれねえ。
手を合わせるのはこっちの方だ」
 
女房が、
もうおまえさんも大丈夫だからのんどくれ
と、酒を出す。
 
株勝、そっと口に運んで、
「よそう。また夢になるといけねえ」(終)。
 
スケジュールを見てみると・・・
 
3日(金):GPIFの4~6月期運用報告、日銀金融政策決定会合議事要旨、米雇用統計、貿易収支、ISM非製造業景況感
6日(月):米国のイランに対する経済制裁一部猶予期限(非鉄・自動車・旅客機など)
7日(火):家計調査、景気動向指数、米消費者信用残高、ミシガン州などで中間選挙予備選
8日(水):景気ウォッチャー調査、中国貿易収支
9日(木):マネーストック、機械受注、都心オフィス空室率、米生産者物価、中国生産者・消費者物価、シンガポール休場
10日(金):4~6月GDP、オプションSQ、企業物価指数、第3次産業活動指数、米消費者物価、財政収支、英4~6月GDP
 
 

(兜町カタリスト櫻井)

 

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