「ぜんざい公社」

「ぜんざい公社」

司馬遼太郎氏の名品「燃えよ剣」に登場していた一場面。

剣術の教授法は、この幕末、未曽有の進歩を遂げた。
ことに千葉周作などは、きわめてすぐれた分析的な頭脳を持っていた。
古流の剣術にありがちな神秘的表現を一切やめた力学的な合理性の面から諸流儀を検討して不要のものを取り除いた。
教えるための言葉も誇大不可思議な用語をやめ、誰でもわかる論理的な言葉を使った。
が、近藤勇の天然理心流は違う。
これは「気組」である。
気合と合理性。
結局勝者になったのは気合ではなく合理的分析だった。
ここ数年の株式市場も同様。
訳のわからない秘伝や罫線などから合理的分析に移行しわかりやすくなったのは事実。
しかし、AIまで行ってしまってまた理解不能になってきた。
まさか「気」が復活するとは思えないが・・・。

株式市場で一世を風靡した「寿司処錦湧兆」を彷彿とさせるような作品だった。

久しぶりに大阪から東京へ出て来た紳士。
高層ビル街を歩いていると、その一画に「ぜんざい公社」の看板。
「東京のぜんざいはどんな味だろう」とビルに入ると、受付で二人が暇そうにべちゃべちゃ話している。
「ぜんざい、食べたいんやけど」
「6階の6番窓口へ行ってください」
ところがエレベーターに乗ろうとすると動いていない。
「エレベーター動いてないがな」
「経費削減、電力節約、国民健康増進歩け歩け運動のため運転を停止しています」
「あんたら毎日、大変やろ」
「職員専用が裏にあります。
乗るには職員身分証明書の提示が必要ですけど」。
仕方なくトコトコと6階の窓口へ・・・。
「ぜんざい食べたいんやけど」
「この申込書に記入してください。
・・・ちょっと待って、あなた東京にお住まいですか?」
「いや、大阪から来たんや」
「それでしたら、こちらの遠隔地者用申込書にお願いします」
「何が違うねん」
「ぜんざい食べて何か問題が起こった時に面倒なことにならないように東京以外の方は規約が細かくなっています」
「何が面倒なことや。
こっちの書類の方がよっぽど面倒やがな。
住所・氏名・生年月日・学歴・特技・賞罰 ・・・。
これ履歴書やがな。
保証人?
ぜんざい食うのに何やこれ?」
「付き添いがいない方には保証人が必要ですが、まあ、今回は大目に見ておきましょう。
本人の氏名欄に捺印してください」
「印鑑なんて持ち歩いておらんがな」
「それでは身分証明書か運転免許証、健康保険証が必要です」
「免許証はあるがな。
ぜんざい食うのに免許証がいるとは恐れ入るこっちゃ」
「それでは銀行で証紙300円買って来てください」
「銀行はどこやねん」
「1階です」。
6階→1階→6階。
「買うて来たで」
「ぜんざいは餅入りにしますか」
「餅入りに決まっておるやろ」
「それなら8階の診療所で健康診断を受けてください。
餅をのどに詰まらせる人が最近多発しておりますので。
診てもらって『ぜんざい飲食許可証』をもらって来てください。
健康保険証をお持ちでないと実費を徴収されますが、その点ご了承を・・・」。
6階→8階の診療所へ。
勤務時間中なのになぜかビルの職員ばかりで混みあっていてだいぶ待たされた。
「今までにぜんざいを食べたことありますか」
「大阪でしょちゅう食ってるがな」
「食べてアレルギー症状が出たとか、餅がのどに詰まったことは?」
「そんなこと一度もあらへん」
「それなら喉のレントゲンは省略しましょう」
やっと許可証を出してもらい、診療費なんか払えるかと大橋さん再び6階の窓口へ。
だが、窓口には「ただいま昼食休憩時間」でまた待たされる。
やっと窓口が開いて、許可証を見せると、
「ぜんざい飲食許可証交付手数料300円を銀行に納めて来てください」。
ぐっとこらえて6階→1階→6階のウオーキング。
「これで手続きは完了ですが、餅は焼きますか生で入れますか」
「焼くにきまってんだろ」
「焼き方はどうします。Aはこんがり狐色、Bは中に芯がある生焼け、Cは炭のように真っ黒こげ」
「Aしかないだろ。炭の餅なんか食うやつおらへんで
「当社では『お客様には丁寧で細かい心配り』をモットーにしておりますので」
「どこが丁寧で細かいのや。ただの嫌がらせやがな」
「餅を焼くので地下の消防事務所で火器使用許可書をもらって来てください」。
ここまで来たら絶対にぜんざいを食うまでは大阪には帰れないとぐっと我慢。
6階→地下→6階の苦行に耐え忍んで許可証を窓口に見せると、
「おめでとうございます。これで晴れてぜんざいがお召し上がりになります。
その前にぜんざい代金2000円を銀行で納めてください」
「2000円。そんな高いぜんざい食えるか!もうええわ」
「もう、契約は成立しておりますので契約解除の違約金が発生することになりますが、それでもよろしければ」
「払うよ、払うよ」
また6階→1階→6階。
「ぜんざい食うとこ何処やねん」
「上野の西郷さんの近くの公社別館です。
この食券を必ず渡してください」。
食券を握りしめて上野の別館へやっとたどり着くとガラガラ。
でもテーブルの上に置いた食券を誰も取りに来ない。
「おい、ちょっとねえちゃん」と呼ぶと、
「国家公務員の事務官さんとおっしゃい! 官僚です」。
やっと運ばれてきたぜんざいを口に流し込んで一息ついて、こんどはゆっくりと味わおうとしたが、全然甘くない。
「よお、国家公務員のねえちゃん。何だいこりゃ、全然甘くない汁やがな」
「甘い汁はとうに我々公社が吸わせて貰いました」。

(櫻井)。

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